[2]ストW男爵(ライバル) [ 2015/7/31 ] |
互いにARTを順調に伸ばし1000枚を越えていく。
真の格闘家(無職)の前では、ART駆け抜けなど起こり得ないのだ。
1500枚に差し掛かる頃、彼の残りゲーム数が無くなりサガットバトルに敗北。
勝負あったかと思いきや、「リュウー!」春麗の復活演出から持ち直し上乗せしてきた。
でもそれより私は、春麗ってそんなキャラだったっけという事が気になって仕方なかった。
直後私は、バトル演出での滅波動拳+連戦で200Gの上乗せに成功。
思わずドヤ顔で彼を見たその時だった。
彼はおもむろに両掌を前に突き出し、何やら唱えはじめた。
こ、この構えはまさか気功拳!?
ついにリアル拳の勝負に発展か。
しかし完全に先手を取られた。
この距離ではかわせない、もうダメだ――――
彼は店員に小冊子を要求していた。
自分で取りに行け。
気功拳の構えを見た時に、小4時代の同級生、山本君を思い出して動揺してしまった。
彼は休み時間に「気功拳!」とポーズをキメながら水風船を投げる遊びに夢中だった、
その後クラスの女子につげ口されて、担任教師に死ぬほど怒られ、コンテニュー画面のエドモンド本田みたいな顔になっていた。
まぁそんなことはどうでもいい。
出玉は、互いに2000枚を越えたあたりで、彼はべガバトルに敗北、私は100G程残しボーナスを引いていた。
私の勝ちだ、そう思い頭上の箱を取ろうと立ち上がった時に気付いた。
彼の姿が見えないことに。
視線を下げると、彼は椅子の横でしゃがんでいた。
こ、この体勢はサマーソルトキック!?
こちらの動きは読まれていた、今度こそおしまいだ、迎撃される――――
彼は足元のコインを拾っていた。
別にいいが、先ほど私が落としたコインだ。
山本君も、さすがにサマーソルトキックは真似していなかった。
あの動きは危険だと本能で察知していたのだろう。
バルセロナ!バルセロナ!と言いながら、校庭の金網をよじ登り、降りられなくなって泣いていたことはあったが。
しかし勝負あった。
出玉対決では、この男爵に軍配が上がったのだ。
彼は静かに立ち上がり、握手を求めてきた。
ということも無く、一箱抱えてジャグラーに移動していた。
敗者はただ去るのみ、それも良いだろう。
言葉は無くとも、レバーオンという拳で語った二人にはわかる。
そもそも出玉勝負の約束などしていないから、では無いのだ。
『ストリートファイターW』は、今も好きな台だ。
通常時が若干キツいものの、特化ゾーン等が無い分どこからでもレア役に期待ができるし、上乗せも素直に乗りやすい。
煽りも適度な範囲で演出や音楽も申し分無いし、こうした好敵手との出会いも与えてくれたのだ。
ありがとうエンターライズ。
『春麗にまかせチャイナ』という名で登場した時には、その素晴らしすぎるセンスに頭を抱えたが、ともかく良い台だ。
帰り際に交換所で彼に再び会った時に気付いた。
どこかで見た顔なのだ。
その眼鏡、特徴のある面長の顔。
隣で打っている時には気づかなかったが間違いない。
あの頃の面影がある。
私は思わぬ出会いに嬉しくなり声をかけた。
「あれ、もしかして山本君? 東小の。」
私の想いが通じたのか、彼は即座にこう答えた
「え… いや、違いますけど…」
コンテニュー画面のエドモンド本田みたいな顔になった、早とちり紳士な私の思い出である。
男爵の記事一覧へ
読者ライターの最新更新一覧へ