[2]マイ・ファニー・トロピカル [ 2016/4/12 ] |
「……ねぇ、まだ続けるの?」
声が聞こえる。
ああ、まただ。
集中力が途切れ、雑念ばかりが渦巻く妄想癖だ。
ATMから帰って来た私の脳内でハナちゃんが話しかけてくる。
「もうやめたら? ハマった分だけ出るってワケじゃないのよ。」
そんなことはわかっているさ。
でも、スロッターとして追わずにはいられないんだ。
「ばかみたい、アツくなってるだけじゃない。」
期待値的に言えば続行するべきだと主張する私に、ハナちゃんの冷ややかな視線が突き刺さる。
「何が期待値よ、どうせ高モード期待の時しか打たないくせに、男なんてみんなハイエナよ。」
違う、勝つための立ち回りはスロッターの常識。
そうした台選びを含めて楽しんでいる。
そもそも今日は、私がイチから回しているんだ。
私の中のハナちゃんがふんとそっぽを向く、聞く耳もたずという態度だ。
まぁ、リール脇のハナちゃんははじめからそっぽを向いているんだけど。
なにしろハマり継続中の展開、私の中のハナちゃんは相当にイヤな女になっていた。
読者諸兄の中のハナちゃんはもっといいコなのだろうか。
そう考えながらもはや謎の義務感でレバーを叩き続ける。
……光った!
頼む、天国モードでBIGを見せてくれ、もう帰りたい(本音)
無情にも揃うREG、お約束の32Gスルー、もう何度見た光景か。
「あはは、残念ね。 でもアタシのせいじゃないわ、アナタがヒキ弱なんだから。」
冒頭に掲載した写真を撮っていると、ハナちゃんの嘲りが頭の中で響く。
…
……
どうあってもモードを上げてくれないらしいな……
私は一旦伸びをし、上着を脱いで背もたれにかけた。
身体をほぐすために軽く肩をまわす。
突然雰囲気の変わった私にハナちゃんが不安そうにたずねる。
「な、なに? まさか、台パンするつもりじゃないでしょうね。」
そんなことはしないさ。
ほうら、追加の一万円札をサンドに飲み込ませるよ。
私は良いお客さんさ、たとえ諭吉が6人死んでても怒ったりしないよ。
「そ、そうよね。 そういえばアナタ紳士を気取って記事投稿しているみたいじゃない、全然浸透してないけど。」
浸透してないは余計だけど、そう、私は紳士だ。
パチスロに対しても、女性に対しても折り目正しい紳士だよ、先ほどまでは。
「そう、紳士的にね。 って……先ほどまで?」
私はリールを見るのをやめた。
目押しというパチスロの大切な要素を完全に無視するという暴挙。
冷静にみれば愚かとしか言えない行為だ。
筐体の一部分だけを凝視して機械的にレバーを叩いて、適当にストップボタンを押す。
「ちょっ!? どこ見てんのよ!!」
さぁ、どこだろうね。
何にせよ、キミはそこから動けないんだろう?
言っておくが、私はBIGが出るまで帰らないぞ。
先日の記事で知ったんだが、バルハチ氏もクランキー氏もオシリ派らしいね。
ひょっとしてランプが点灯すると水着が透けたりするのかな。
「そんなワケないでしょ、モード上げてやらないわよ!」
ああ結構、今さらキミの力を借りようとは思っていないさ。
おっと、さっそく光ったな、オシリゴト成功だ。
「……フン、またレギュラーからの32Gスルー、いいキミね。 もう閉店までハマり続けたらいいんだわ。」
…
「(なによコイツ、急に黙っちゃって)」
…
……
ふぅ……
「どうしたの? ようやく諦めた?」
いいや、ようやくチェリーが来たのさ。
「なに言ってるの? ハイビスカスも光ってないのに。」
確かにハイビスカスは光ってない、でもリールがフラッシュしたんだ。
「リールがフラッシュ……、あっ!?」
まだハイビスカスは光っていないが、第3停止でリールフラッシュ、チェリー解除だ。
そしてようやく7が綺麗に揃う。
さぁ、返してもらおうか、私の6時間と諭吉を。
歌ってもらう、君の声が枯れるまで。
※BIG 2回、REG 14回、32Gスルー直後
BIG2連終了。
本日の投資3300枚、回収340枚。
「だから言ったじゃない、ホントばかね。」
ハナちゃんがあきれた様子で溜息をついた。
姉よりすぐれた妹なぞ存在しねぇ!!
はは…はばは ばわ!!
私の魂の叫びがむなしく響いた。
心中でヘルメットの兄貴が暴れまわっていた紳士な私の思い出である。
(C)UNIVERSALENTERTAINMENT
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