〜2週間後〜
この時はすでにO店は優良店と認知されていて、開店前には前回をはるかに上回る行列ができ、徹夜組も数名いた模様。
『謎の名機再降臨!?機種名を当てて最高設定をGETせよ』と、銘打たれた広告にはこう注意書きが加筆されていました。
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今回の『謎の名機!?』は長期間屋外にて保存されていた為、状態がかなり悪くなっており、機種名を当てる事は困難だと思われます。
よって、今回はお好きな機種をお好きな設定で打てる権利を3日間分進呈致します。
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この注意書きに人が押し寄せてきた訳です。
開店早々、展示機には黒山の人だかりが。
しかし、展示機を見た人達はあまりの状態の悪さに絶句しました。
屋外保存の為か、薄汚れたパネルに錆びついた筐体。
元のデザインが分からない程、日焼けにより変色したリール。
プラスチック部分は所々割れており、電源を入れてもとても動く状態とは思えず、まさに死んだ様な状態。
そんな状態でしたので、もちろん誰一人として機種名が分かる人はいません。
30分も経つ頃には、黒山の人だかりはすっかり無くなってしまいました。
時間だけが無情にも過ぎ、今日の所はTの来店を諦めていました。
ところが午後10時を回った頃、一人の男性が展示機を見つめています。
ついに、あのTがO店に来店したのです。
Tは店長を探し出し、「あの〜。」と声をかけます。
店長 「あぁ、え〜とTさんでしたね。 先日はどうも。」
T 「どうも…この台の名前なのですが…。」
店長 「少々お待ち頂けますか。」
と、オーナーの元へ向かいました。
店長 「オーナーやりましたよ、Tがエサに食いついてきました。」
オーナー 「本当か!? よし、応接室へ…。」
応接室には再び3名が揃いました。
オーナー 「え〜と、あなたは確かTさん。」
T 「はい。」
オーナー 「先日もお見えになりましたね。」
T 「はい。」
オーナー 「今回も展示機の名前が分かると聞いたのですが、パチスロお詳しいのですね。」
T 「はい、実は昔パチンコとパチスロを扱う商社に勤めていまして、世に出なかった台もたくさん見てきたものですから。」
オーナー 「ほぉ、そうですか。」
T 「今日はこの部屋に展示してある『すろすこ』も、その時に見掛けた機種です。」
オーナー 「ほぉほぉ、そうですか。」
と、含み笑いをしながら応えます。
店長 「それでTさん、今回の展示機の名前は?」
T 「あっはい、あの機種の名前は
『すてれんきょう』と言います。」
と、自信満々に答えます。
オーナー&店長 「『すてれんきょう』?」
T 「はい、そうです。」
オーナー 「………。」
店長 「間違いありませんか?」
T 「間違いありません。」
店長 「オーナー。」
オーナーは頷きました。
店長 「Tさん、あなたは私達を騙しましたね。」
T 「えっ? 騙した?」
店長 「騙しましたよね? 我々はあなたを詐欺の疑いで提訴するつもりです。」
T 「詐欺…? ちょ、ちょっと待って下さい、私は騙してなんかいません。」
店長 「いいえ、騙しました! あなたはさっき、今回のイベントでの展示機である機種を『すてれんきょう』で間違い無いと言いましたよね。」
T 「はい、それが?」
店長 「あなたが『すてれんきょう』と言ったこの機種は、前回あなたが『すろすこ』と言った機種と同じ物です。」
T 「えっ? 『すろすこ』はここに……。」
店長 「ここにある『すろすこ』は前回展示した物ではありません。」
T 「?…どういう事ですか?」
店長 「実はこの機種は2台ありまして、その内1台を前回展示しました。」
T 「? ……。」
店長 「今回展示した機種は、その台を屋外で保管し、さらに意図的に破損させたりして、同じ物と分からない様にした物です。」
オーナー 「つまり、今回の展示機と、前回の展示機は同じ物と言う事です。」
店長 「それをあなたは各々違う名前だと言いました、これでも騙して無いと言えますか?」
オーナー 「ウチの顧問弁護士には、話を通しています。」
T 「ちょ、ちょっと待って下さい、私は本当に騙してなんかいません。」
オーナー 「まだそんな事を言うか! 男らしく観念しろ!!」
T 「はい、私があなた方を本当に騙したのであれば観念します。 が、前回の展示機は間違いなく『すろすこ』で、今回の展示機は『すてれんきょう』で間違いありません。」
オーナー 「ふざけるな!!」
T 「話を聞いて下さい、前回の展示機と今回の展示機が同じ物である事は一目見て分かりました。」
オーナー 「話にならん。 おい店長、弁護士の先生を呼んでくれ。」
店長 「分かりました。」
T 「ですから話を聞いて下さい、『すろすこ』とはあの台が稼働出来る状態、いわば生きている時の呼び名です。 全く動かない死んだ状態になると『すてれんきょう』と呼び名を変えます。」
と、必死で訴えます。
オーナー 「ふざけるのもいいかげんにしろ!! 死んだ状態になっただけで、名前が変わるなんて考えられん。」
T 「『即身仏』と言うのを御存じですか?」
オーナー 「何? 『即身仏』?」
T 「はい、『即身仏』とは、人々の救済を願い、厳しい修行のすえ、自らの肉体を『ミイラ』として残した、高僧の事です。」
店長 「何が言いたい!?」
と、店長が問い詰めます。
T 「いくら高僧と言えど、生きたままでは『ミイラ』と呼ばれませんよね。」
店長 「うっ!」
オーナー 「………。」
T 「身近な所ですと、生きたままでは『イカ』と呼ばれる生物も、死んで干からびれば『スルメ』と名を変えます。」
店長 「うぅ、『イカ』が死んで『スルメ』…。」
オーナー 「………。」
T 「『すろすこ』が死ねば『すてれんきょう』に名前が変わるのです。」
店長 「………。」
T 「………。」
オーナー 「ぶゎっはっはっは。 なるほどなるほど、良くわかりました。 おい店長、Tさんにどの機種をどの設定で打ちたいかお聞きしろ。」
Tは涙目になりながら「……では。」と、声を絞り出しました。
店長 「オーナー、宜しいのですか? また騙されているかもしれませんよ。」
オーナー 「確か今回は3日間だったな。」
店長 「オーナー!!」
オーナー 「…店長。」
店長 「はい。」
オーナー 「我々の負けだよ。」
と、オーナーは笑顔でそう言いました。
T 「ありがとうございます、では前回同様『ハクション大魔王』の角台を6でお願いします。」
オーナー 「今日はもう閉店ですので明日からと言うことで?」
T 「はい、3日間連続でお願いします。」
店長 「…分かりました。」
T 「これは余談ですが、ほんの一部の方がパチンコ、パチスロが死んで廃棄処分待ちの台の事を総称して『すてれんきょう』と呼ぶ事もあります。」
オーナー 「ほほぅ、そうなのですか?」
T 「はい、その様な産業廃棄物はすぐには捨てれませんよね? 『今日は捨てれん(きょうはすてれん)』が訛って『すてれんきょう』になったのが語源だと聞きます。」
オーナー 「なるほど…。」
T 「ですので、今後同様のイベントを行うと全て『すてれんきょう』となりますので、ご注意下さればと。」
オーナー 「おぉ、そうですね、ご助言ありがとうございます。」
店長 「…ありがとうございます。」
T 「こちらこそありがとうございます。 それでは明日から宜しくお願いします。」
翌日、Tの『ハクション大魔王』は再び2万枚オーバーを記録。
2日目、3日目も共に2万枚を記録……どころか3万枚オーバー。
この4日間で、Tが叩きだした枚数は実に10万枚を越え、改めて『ハクション大魔王』の設定6の破壊力を知らされる事となりました。
その後O店は、優良店だと言うことが広く知れ渡り、空き台を探すのが困難な程生まれ変わったのでした。
ここまで読んで頂いてピンと来た方もいらっしゃるかと思います。
今回のストーリーは私の完全オリジナルではございません。
とあるオハナシをパチスロ風にアレンジしたものです。
元ネタは、分かる方だけ分かって頂ければと(笑)。
ですので、O店はもちろん『すろすこ』や『すてれんきょう』も実在しません。
が、『ハクション大魔王』なる4号機は過去に実在し、6のスペックも決して大袈裟ではありませんでした。
皆様は現行機種で、好きな機種が好きな設定で打てる権利を得る事が出来れば、何をどの設定で打ちますか?
私は『クレアの秘宝伝』の、設定はやっぱ6かなぁ。
ケド、設置店が近くにもう無いしなぁ。
となると『HANABI』の6かな?
実はまだ打った事が無いどころか、実物も見て無いんですよね(笑)。
初打ちで6なんて最高だろうなぁ。
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