「ッたくよぉ! あのハゲ部長マジムカつくよッ!!」
ランチタイムのピークを過ぎた14時頃、ややガランとしている店内で、一人遅めの昼食を取っていた時だった。
不意に二つ隣りの席から聞こえてきた声。
横目で軽く見てみると、そこには3人のサラリーマン達が昼食をとっていた。
会話の内容や口調、声の感じからすると、3人とも歳は30前後。
雰囲気から察するに、おそらく皆同期、もしくはそれに準ずる間柄なのだと思われる。
「・・・・・・ほ、ほんとだよな」
勢いよく上司への不満を述べた男に対し、対面に座っていた男が軽く相槌を打つ。
実にありふれた、よく見る光景。
昼食中の上司への愚痴は、部下たちにとって格好のストレス発散となるのだ。
俺もサラリーマンだ。
その気持ちはよくわかるし、俺たちもよくそうする。
ストレスを溜め込んで、一人モンモンと悩むよりはよっぽどよいだろう。
そして、さらに彼の愚痴は続く。
「マジあいつ何考えてんだよ! あんな資料くらい自分で作れってんだよなぁ!?」
「・・・・・・ま、まあそうだよねぇ。
あんなのまでいちいちやらされてたんじゃ、自分の仕事がなかなか捗らないしね。」
「ホント信じらんねぇよあのハゲッ! どっか飛ばされねぇかな!? 北海道とか。」
「・・・・・・あ、ああ、そうだよね。」
約一名、やけにエキサイトしている人物がいるが、他の二人はたどたどしく相槌を打つだけ。
なんとなく不思議に思い、この人たちは一体どんな感じの3人組なのか、そして、エキサイトさんがどんな人なのかをうかがうため、ここまではそれとなく横目で見ていた俺だが、思い切ってそのサラリーマンたちの方に目を向けてみることにした。
・・・・・・・・その時であるッ!
俺に激しい戦慄が走ったッ!!
なんと、今まで先頭切ってハゲ部長を攻撃していたエキサイトなその彼が・・・・・・・・・・・・・
若干ハゲていたのである・・・・・・・・・・
これには心底愕然とした。
と同時に、
「ある謎」も解けてしまった。
彼らが返事をするときのたどたどしさは、「おまえもじゃん!」って言葉が一瞬出かかるのを必死で抑えていたわけだ。
良心という重りで。
今さっき俺が、あのキーワードの前に
「若干」をつけたのも、そんな良心からだったりもする。
彼らの気まずさ・やりきれなさたるや、想像を絶するものだろう。
なにせ、そこそこ離れた位置で聞いている俺ですら、痛々しい気分で切なくなっているのに。
育毛が「要」か「不要」かと問われれば、悲しいほどまでに「要」なエキサイトさん。
「シロ」か「クロ」かで言えば、間違いなく「クロ」なエキサイトさん。(頭部はある意味クロくないが・・・・・)
俺が愕然とするのも無理もない。
だって、例えるならば、100点満点のテストで20点の人間が、15点の人間を思いっきりバカにするようなものだ。
そりゃあ戸惑いもする。
そして、
彼の蛮勇はさらに続く。
「でも北海道に飛ばされるのはさすがにかわいそうか! 頭寒すぎだもんなあ!? あっはっは♪」
残念ながら、笑っていたのは彼だけだった・・・・・・・
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