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ゴーストスロッター 第52話



■ 第52話 ■

「(来た・・・・ 来た・・・・)」

ゆっくりと歩み寄ってくるホール主任と思われる男。
徐々に優司との距離がつまってくる。

そして、ついにすぐ後ろまでやってきた。

当然、変則押しを続行する優司。

ゴールドXの変則押しは、毎回警告音が鳴るので非常に目立つ。
これが見過ごされる可能性は皆無に等しい。

本来ならば他の客からの視線が気になるところだが、幸いにもゴールドXのシマ・付近のシマともに今は
ほとんど客がおらず、周囲の客から奇異な目で見られることは回避できていた。

ほぼ無人のシマで、声がかかるのを今か今かと待ち受けながら変則押しをする優司。

しかし・・・・・・

なぜか一向に声がかからない。

おかしいと思い後ろを振り返ってみると、なぜかそこには既にホール主任の姿はなかった。

急いであたりを見渡すと、シマのハジで腕を組みながら優司の姿をじっと見ているホール主任の姿が。

そして、優司と目が合った瞬間、ニヤリと笑ってそのままどこかへ行ってしまったのである。

「(・・・・・・・・え??
  ちょ・・・・・・・ ど・・・・・・・・・ どういうことだ・・・・・・・??)」

気付かなかったわけがない。

あれだけ大きな警告音が台から発せられていたし、そもそも一度は自分の後ろに立ち止まったのだ。
確実に気付いているはず。

優司はそう確信していた。

「(・・・・・・・ていうかあの主任、俺と目が合った瞬間に笑ったよな・・・・・・
  なんで笑ったんだ・・・・・・? なんでそんなことする必要が・・・・・・?)」

イヤな予感が走る。

「(いや、まさか・・・・・
  でも・・・・・・ え・・・・・??)」

頭が混乱する。

「(そ、そんなことあるわけ・・・・・・
  いくら八尾でも、そこまでするわけないって・・・・・・
  それじゃ既に『勝負』じゃないって・・・・・・)」

最悪の答えがどんどんと頭の中を支配していく。

「(だってそんな・・・・・・
  店の人間と組まれてたんじゃ勝ち目なんかあるわけないじゃんか・・・・・・・・)」

決して認めたくなかったが、ついにそれを頭に描いてしまった。

この瞬間、凄まじい吐き気と冷や汗が優司を襲った。





  『負ける』





この言葉が、両方の耳から幻聴のように何度も何度も聞こえてくる。

「(負ける・・・・ 負ける・・・・ 負けるのか・・・・?
  嘘だろッ!?
  ふ、ふざけるなッ!!!
  なんで俺が負けなきゃいけないんだ!?!?)」

絶望の表情から、段々と怒りの表情へと変化していった。

「(そうだよッ! 俺の負けなわけがない!
  だって店員とグルなんだぞ!?
  こんなのどう考えたって反則だろ!?
  ふぅ〜 危ない危ない。
  本気で『負け』になるかと思った。
  よし、今から八尾のヤツをとっちめてやるか!)」

そう思い立ち、席を離れようとする優司。
すると、なぜかゴールドXのシマのハジには八尾と信次が二人して立っていた。

若干驚いた優司だったが、すぐさま気を取り直す。

「(ふん、あの主任がしっかりと仕事をするかどうか見届けにきたってわけか。
  汚ない真似しやがって・・・
  さてと、どうやって問い詰めてやるか。
  ストレートに『店員と組んでることはわかってんだ!』とでも言うか!
  よし、それでいこ・・・・・)」)」

ここでフッと冷静になる優司。

「(・・・・・ちょっと待て。
  俺はさっきからなんで『八尾が店員とグル』って決め付けてたんだっけ?
  なんでだっけ・・・・?」

一瞬足が止まる優司。

「・・・・・・あ、そうかそうか、確か変則押しする俺を見てニヤっと笑ったんだよな、あの主任が。
  しかも、今こうやって八尾も様子を見に来てるわけだし・・・・・・・・・・
  それで・・・・・・・?)」

起死回生かと思ったのも束の間、またしても顔色が変わっていく優司。

「(そうだよ・・・・・
  俺は何考えてんだ・・・・・?
  たったそれだけで・・・・・ なんの証拠もなく八尾にねじ込むつもりだったのか俺は・・・・・
  そんなの、八尾は『知らない』って言い張るに決まってる。
  あの主任にしたって、わざわざ自分からゲロってくるわけない。
  そんなことしたら、下手したら背任ってことで後々面倒な問題になる。 そんなの認めるわけがない。
  ・・・・・・じゃあ証拠は??
  八尾が明らかな不正をしてるって証拠はどこにあるんだ??)」

どんどん追い詰められていく。

そう、今までの思考は、すべて優司の主観で感じたことでしかないのだ。

確かに、状況証拠は揃っている。
普通に判断すれば、八尾と主任が組んでる可能性が濃厚。
店を指定したのも八尾なのだから。

しかし、容疑はあくまで容疑。
裁判でも、「疑わしきは罰せず」が基本方針。
つまり、7〜8割方そうだろうと思われることでも、確定的な証拠がなければ有罪とはならないのだ。

ましてや、こんな場末の勝負など、すっとぼけられたら終わり。

「(なんてバカなんだよ俺は・・・・・
  なんで勝ち誇ったような気になってたんだ・・・・・)」

再び立場が元の地点に戻ってしまった。
元の不利な立場に。

「(・・・・・とりあえず日高と相談しよう。
  何か良いアイデアをくれるかも・・・・)」

こう考え、八尾たちの横を素通りしていき、一旦日高の元へと向かっていった。

そんな優司を、余裕のニヤケ面で見送る八尾と信次だった。


**********************************************************************


「どうしたんだよ夏目?
  うまいこと出玉没収にはありついたのか?
  つーか、なんで八尾はわざわざゴールドXのシマまで行ったんだろうな。
  よっぽど出玉没収が気になったんかな?」

『ベガス』から30mほど離れたところにあるコンビニの前。
日高は、優司に呼ばれてここまで連れ出されていた。

なんだか様子のおかしい優司に、やや不安げに問いかけた日高。

そして優司、、、

「やばい・・・・・ まずいことになったよ日高。」

「ん? まずいこと?
  なかなか変則押しが注意されないのか?」

「・・・・・・八尾のヤツ、ベガスの主任と組んでやがる・・・・・・」

「えッ!? ま、まさか・・・・・・・」

「いや。 ほぼ間違いないと思う。
  思いっきし変則押ししてるところをあそこの主任に見られたんだけど、平然と無視していったんだ。
  しかも、俺と目が合った時に軽く笑ったんだよ、あの主任・・・・・・
  八尾のヤツもニヤニヤしながら見てたし。」

「・・・・・・・・・・」

「小島の話だと、見つかってすぐに没収されたって言ってたよね?
  それなのに、モロに見られてるのにシカトだよ?
  しかも笑うってのはどう考えてもおかしいでしょ・・・・?」

「・・・・おかしいっつーか、ほぼ確定だろうな。
  確かに、随分とおとなしくしてるなとは思ってたんだよ、八尾の野郎。
  勝つ為にはなんでもするような奴なんだろ?
  その割には動きが少ないなって・・・」

「ど、どうしよう・・・!?
  なんとか八尾の不正を問い詰める方法はないかな!?
  必死で考えてんだけどなかなか思い浮かばなくて・・・・」

「不正・・・・・・・・?」

そう聞き返し、じっと優司を見据える日高。

「ど、どうしたんだよ、そんな怖い顔して?」

「夏目・・・・・」

「・・・・ん?」

「お前、ゴールドXの変則押しを始めた時にどう思った?」

日高は、厳しい表情で優司にそう問いかけた。
 

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