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ゴーストスロッター 第43話



■ 第43話 ■

「なるほどね。 『逆出玉勝負』か・・・・」

先ほどまでの八尾とのやりとりを詳しく説明した優司。
一通り説明を聞き終え、なんとなく納得したような顔つきの日高。

「確かに、その勝負形式ならお前のヒキの弱さが武器になるよな!
  いいんじゃねぇか!?」

真鍋も明るい表情で続いた。
しかし、この真鍋の言葉に日高が突っかかる。

「おいおい、ヒキの弱さが武器ってなんだよ遼介!?
  そんなんが武器になるわけねぇだろ?
  何度も言うようだけどよ、ヒキなんてモンは存在しねぇんだよ!
  ヒキなんてのは個々の勝負における単なる結果であって、いつかは必ず収束するもんなんだ。
  そんなのに強いも弱いもねぇよ!」

「あ? お前も今までの夏目を見てきただろ?
  ヒキは存在するんだよ!
  こんなに弱いヤツ見たことねぇだろ?
  いい加減認めちまえよ!」

「はぁーあ・・・・
  また言い出しやがったよ、このオカルト野郎が・・・・・」

「なんだとッ!?!?」

「いいか!?
  パチスロってのは数学が分かってりゃ勝てるモンなんだよ。
  ギャンブルは数学ができない奴に課される税金だ!
  夏目のヒキだって単なる偏りで、そのうち収束するんだよ!」

「収束収束って、言うのは簡単でもなかなかそうはならねぇだろうがッ!」

段々とヒートアップする二人。
ここからは、いつもの言い合いへと発展していった。

「(毎度のこととはいえ、よくやるよなぁホント・・・・)」

この二人の様子を見ながら、呆れたような、ちょっと羨ましいような、そんな微妙な気持ちの優司だった。


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串丸を出たのは、23:00を過ぎた頃。

八尾との勝負の件は、「とりあえず他に相手も決まらないことだし、まあOKだろう」ということで
まとまった。

皆、心のどこかで「高設定ばかり座ってマイナス叩く男が、逆出玉勝負で負けるわけがない」と
思っていたのである。
ヒキを否定する日高でさえ、無意識のうちにそう考えていた。

「よぉし、それじゃあな夏目ッ! ご機嫌ようッ!」

上機嫌の真鍋が、日高と肩を組みながら大声で声をかけてくる。
当然、さっきまでの口論の気配などどこにもない。
それは日高も同様。

「うん! それじゃあまた今度!」

優司も相当に酔っ払っていた為、この真鍋の呼び掛けに負けず劣らずの大声で返事を返した。

このまま皆散会し、各々家路へと着く。
優司は、常宿として利用しているカプセルホテルへ向かった。

「(そうだ。 そろそろ洗濯も行っとかないとな。
  コインロッカーに荷物取りに行かないと。)」

金のない頃は、危険を承知で公園などの隅っこに置きっぱなしにしていた衣類などの荷物。

しかし、そこそこの金を持つようになった今は、普通にコインロッカーを使用していた。

そのコインロッカーに荷物を置いておき、必要な時に取りに行く。
これが優司のライフスタイルだった。

行き先をカプセルから駅前のコインロッカーへと変更し、千鳥足でフラフラと歩く。
ボンヤリと八尾との勝負のことを考えながら。

「イテッ!」

フラフラしていたせいかボンヤリしていたせいか、気付くと、何かにぶつかってしまっていた。

下を見下ろすと、そこにはホームレスと思しき一人の小汚い若い男がしゃがみこんでいた。
どうやら飲食店のゴミを漁っていたようである。

「(邪魔だなぁ。
  何でこんなとこにしゃがみ込んでんだよ・・・・)」

あからさまにイラついた表情になる優司に対し、そのホームレスも不愉快そうに優司をにらみつけてきた。

しかし、優司と目が合ったその瞬間、そのホームレスの表情はみるみる変わっていった。

「あッ・・・・・・・・・!?
  お、お、お前はッ・・・・
  な、夏目・・・・ 夏目だよな・・・・・?」

「・・・・・?」

「お前! 夏目優司だろ!?
  ほら、俺だよ! わかるだろ!?」

そう言って胸倉に掴みかかりながら、執拗に優司の体を揺さぶるホームレス。

それに対し、必死で振り払おうとする優司。

「な、なんなんだよ!? 誰だよ!?
  お前みたいな小汚い男に知り合いなんていな・・・・」

途中まで言いかけたところで、なんとなく見覚えがあることに気付いた。

そして・・・・・

「あ・・・・・ も、もしかして・・・・・ ふ、藤田・・・・・か?」

「やっと思い出したのかよ!
  そうだよ! テメェにボロボロにされた藤田だッ!!」

藤田。
優司と日高が勝負するきっかけとなった男である。

優司の選んだ台で藤田が打ち、その収支を折半しようと約束したのだが、いざ金を分配する時に
藤田が金を独り占めしたことにより優司にきつい復讐をされ、ついにはここまで身を落としていたのだ。

日高から、「あいつはホームレスになりそうだ」という話は聞いていたが、まさか本当にそこまでに
なっているとは予想もしていなかった。

「お、お前・・・・
  こ、こんなことやってんのかよ・・・・・?
  な、なんでだ・・・・?」

「なんでじゃねぇよッ!!
  お前のせいだろうがッ!!
  あの後、日高の野郎にきっちりと有り金持って行かれてよ、結局家も追い出されちまったんだよッ!!」

「・・・・・で、でもそれはお前が悪いんだろ。
  お前が最初に俺を裏切るようなマネをしたんだから・・・・」

「うるせぇッ!!
  それにしたってあそこまですることもないだろうがよッ!!
  大体あの時・・・・・・」

その後も、延々と恨み辛みを大声でがなりたてる藤田。

最初はやや圧倒されていた優司だが、あまりに身勝手な藤田の言い分に段々と腹が立ってきた。

そしてついに我慢できなくなり、藤田の胸倉を掴み返し、藤田以上の大声で言い返す優司。

「い、いい加減にしろよッ!!!
  全部お前が勝手なマネしたことから始まってんだろ!?
  あの時俺がどれだけショック受けたと思ってんだよッ!!!
  ふざけんなッ!!!
  さっさとどっかで野垂れ死んじまえよッ!!!」

それまでおとなしくしていた優司がいきなりキレたことにより、思わず怯んでしまう藤田。

そんな藤田を尻目に、優司は振り向きもせずにその場から早足で歩き去っていった。


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イライラしながら歩き続けること5分。
目的のコインロッカーへと到着。

ポケットから鍵を取り出し、ロッカーを開けて自分の荷物を取り出す。

この間、必死で平常心を取り戻そうとしていた優司だが、頭に浮かんでくるのは先ほどの藤田の
姿だけだった。

「(もし今度の八尾との勝負に負ければ、いつ俺がああなるかわかったもんじゃないんだ。
 俺は、『無敗』という勲章だけでなんとかなってるようなもんだしな。
  一度負けたらどうなるかわかったもんじゃない。
  今ある金だって、たちどころに無くなっていくことになるかもしれないんだ。
  ・・・・・・・実家には絶対に戻れない。
  とにかく、何がなんでもこの街で生きていかないと。 それしかないんだ・・・・・・)」

先ほどまでの陽気な気分は完全に吹き飛んでいた。

あるのは、ただただ恐怖心のみ。

今更ながらに、自分が置かれている立場を再認識する優司だった。
 

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